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英雄クロニクルや天呼でまったりプレイしている我が家の食卓(2liy)/天呼のダイス君(3745)文やらくがきをひっそりと上げる用
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2025.06.18 Wednesday
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2015.02.01 Sunday
ツクダニとシオカラの出会い

<ツクダニ視点/暗め>


俺は、死ぬはずだった。

噎せ返るような土の香りで目を覚ませば、そこは森の中だった。 逞しい幹を持つ大きな木々に、葉に覆われるようにして広がる空と月。暫く異臭の漂う牢屋にいたせいか、外の空気がやたら美味しく感じた。
何故、自分はこんなところにいる?

(どこだ、ここは)

鉛のように重い身体はぴくりとも動かず、かわりに眼球だけを動かして辺りを確認した。見えたのは真っ暗な森と、空と月だけ。意識が堕ちる前に牢屋の中で見たのも月だった。 見納めに、と鉄格子越しに月を眺めて意識を落とし、起きたら最後。死ぬはずだった。
目が覚めたら執行人に連れられ、町の人の嫌悪と好奇の目に晒され、下卑た豪族共の笑い声を聞きながら、つまらない見せ物のようにあっさりと首を跳ねられて終わる。 そのはずだった。
なのに、周りからは人の気配はまったく感じられない。 気付けば両腕両足首につけられていた鉄枷も、左腕だけを残して外されていた。何故左腕だけ? 誰かが俺を助けて、ここまで連れてきたのだろうか。なんの為に?
すっかり動くことを忘れた頭に問いかけても、答えはわからなかった。 暗い森の中から、虫の羽音とフクロウの鳴き声だけが聞こえてくる。さわ、と緩やかに風が流れてきて微かに葉を揺らした。

それと同時に風上から流れてくる、獣の臭い。

(…囲まれてるな)

地面に寝そべったまま、緩慢な動きで目だけをそちらにやる。 月の光が差し込まない暗い森の中から、三つの黒い大きな影が足音も立てずに姿を現した。 犬?いや、狼か。それにしても随分大きい。
トゲの様な黒い毛を逆立たせ牙を剥いて見せるそいつらは、俺を確認して小さく唸るとまるで品定めでもするように周りをゆっくりと歩き出した。

なるほど、これが俺に対する罰か。
刑を恐れた俺が脱獄、森の中まで逃げたは良いものの獣に食われておしまい。 豪族の中ではそういう筋書きに違いない。どこまでも俺に汚名を着せたいらしいな。小さく自嘲の笑みを浮かべる。
ああ、いいだろう。妹と同じ方法で逝けるなら喜んで食われてやる。虚ろだった心に熱が戻った気がした。可笑しな話だ。死ぬ事が希望になるなんて。罰が救いになるなんて。
俺は愛玩動物にでも語りかけるように、穏やかに獣に向かって呟いた。

「さあ、たんと食え」

爪が肉を裂き、牙が目の前に迫ってくるのを見届けながら俺はそっと目を閉じた。 











目を覚ますと、今度は木造の天井が見えた。

「……あれ」

あれ?死ななかったか今。 俺はさっき、狼に食われて、死んだはず。 夢だったなんて、そんなばかな……夢オチなら、どこからどこまでが?
視界に映るのは、なんの変哲もない木で作られた小部屋。天井裏のように狭いそこには、木箱一つが隅に置かれているだけで、後は何も無かった。窓からは柔らかい日差しが差し込み、鳥の楽しげな囀りが聞こえて来る。
自分の家でも知り合いの家でもない。勿論牢屋でもない。
ガンガンと痛む頭を持ち上げて無理矢理身体を動かせば、突き抜けるような痛みが走った。

「…ッ」

少し起した身体をまた投げ出す。 詰めていた息を吐き出して、痛む身体を確認すると、あちらこちらに荒く包帯が巻かれていた。 白かったであろう包帯には血が滲み黒く変色していて、よくよく見てみると俺が寝かされているベッドにも血や土汚れがこびりついていた。とても怪我人を寝かせておく場所には見えない。
混乱して痛む頭を押さえため息をついていると、部屋の外から軽い足音が聞こえてきた。 脱力していた身体に一気に緊張が走る。 ゆっくりと近づいてくる足音は俺がいるであろう部屋の前で止まると、一言も無しに空間を隔てていた扉を外して入ってきた。

「あれ?起きた?」

入ってきたのは、一人の少女だった。
俺の国では見かけない、桜色の髪に赤い瞳。年の頃が妹と同じくらいという事もあって、俺は多少警戒しつつも、少しだけ緊張の糸を緩めた。

「ちょうど良かった。包帯変えるからとっとと起きて」

少女は寝ている俺の横に立つと、自己紹介も状況説明もなく、あっけらかんとそう指示を出した。あまりに雑な対応に一瞬時が止まる。

「…先に聞いてもいいか?」
「はい?どうぞ」
「ここはどこだ。」
「えー」

私の家?と小首をかしげながら言う少女。何故疑問系?
質問を補足するようにどこの国か、俺は何故ここにいるのかを聞くと、少女はあからさまに面倒臭そうな顔をして頭を掻いた。

「そういう質問攻め苦手だなぁ。ここら辺の事もよく知らないし…」

困っているようにそう言ったあと、少女は気を取り直すように「とりあえず」と言葉を挟んだ。俺の目の前にずっと手に持っていた箱を突きつけてくる。

「手当しよう。流石にこれ以上部屋を汚されたくないんだよね。」


その少女は「シオカラ」と名乗った。
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