ソボロとツクダニの出会い
<ツクダニ視点>
雲一つない、晴れた日の事だった。
空いっぱいに広がる鮮やかな青色に、爽やかな風。空気もからりと乾いていて、まさに絶好の洗濯日和。ここ数日の雨で溜まった洗濯物も、これなら直に乾くだろう。
強い朝日で、いつもより早く目を覚ましたシオカラと朝食を摂ると、俺は大きめの桶に洗濯物をまとめて川に向かった。葉の擦れる心地よい音に、遠くから聞こえる町の音。穏やかな空気に自然と足取りも軽くなる。
地面にくっきりと映った木陰を踏みながら、森の中を歩いていると、ふと、異臭が僅かに鼻孔を掠めた。呑気な天気に相応しくない、すっかり嗅ぎなれてしまった鉄の臭い。
緩んでいた気持ちが一瞬で強張る。俺は、桶を抱えていた腕に無意識に力を込めながら、臭いのする方へ向かった。
動物が怪我しているのだろうか?それにしては獣の臭いがしない。こんなところに人が倒れているのだろうか。
警戒しながら、恐る恐る草をかき分け獣道を進んでいくと、木々が開けた場所が見えてきた。
(なんだあれは)
木陰に隠れるようにして、大きな黒い何かが転がっている。
土に広がる血に、鼻に突く異臭。頭に嫌な記憶が掠め、思わず眉を顰めた。生い茂っている草影から音を立てないよう出ると、警戒を強めながらその黒い何かに近づく。その黒いのは、一応生物のようで、浅い呼吸に合わせて身体が僅かに動いていた。
生きている。小さく安堵の息を吐きながら肩の力を抜いた。
(…人間、か?)
体を丸めていて顔は見えないが、俺より少し小さいくらいの男のようだ。露出が一切ない、袖の長い黒服を着込んでいて、唯一出ている頭部にも血を浴びており、遠目から見ると黒い塊のように見える。辺りを見渡すと、地面に広がった血に混じって、変色した羽根が散らばっていた。
ブリアティルトには人間に近い形をした種族も沢山いるから、そのうちのどれかかも知れない。
この国の民間人には見えないから、戦場から逃れた傭兵か敵国の兵だろう。
「おい、大丈夫か」
桶を置き、傷口を確認しようと男の体を転がす。本来鼻や口があるはずの場所が、すっぽりと鳥の嘴で覆われている。どうやら嘴は作り物らしい。変わった形の面だな、そう思いながら何気なく、顔を確認しようと視線を上げた。
血で濡れた、長い前髪の隙間から、灰色の目がこちらを覗いていた。
思わず硬直する。汚れた髪と肌の中から見える、不自然な程穏やかな目に、ここに来たばかりの自分を思い出した。
男は、固まったままの俺を笑うように目を細めると、口元を覆っている鳥の嘴をゆっくりと開き(動くのかそれ)、静かに声を発した。
「…くるっぽー」
なんだ、鳩か。