ツクダニとソルトの花魁遊び
<ツクダニ視点/大体ツクダニ受け>
磨かれた皿を棚に並べ一息つく。
時刻はとっくに日が沈み、月が天高く上がっている夜更け。食事を食べ終えたシオカラはさっさと風呂に入り寝てしまっている。
家事も一通り済んだ。片付いた台所を見回して俺も寝るかと身体を動かそうとした時、背後から存在を知らせるように壁を叩く音が聞こえた。
「ツクダニさん、今ちょっとよろしいですか?」
振り返ると、男物の着物を纏ったソルトが立っていた。若草色の着流しを緩く着付け、いつもつけている髪飾りを取り緩やかな長い髪を下ろしている。寝巻以外で男物を着ているところを見るのは珍しい。
なんだと問うと、ソルトは笑みを崩さないまま開いている手でお猪口を持つ形を作り一口飲む仕草をした。
「一杯どうですか?」
「…お前夕飯の時も飲んでただろ」
溜息をつきながら首を横に振ると、ソルトが笑いながら肩に擦り寄って来る。
「違うんですよ、今度は外で。たまにはいいでしょう?ね」
確かに飲む時はいつも家だったが、それはシオカラがいるからで。俺がここに来て以来、夜中にシオカラを一人家に残すことなんてなかったから、置いて行くのは心配だ。
駄目だ、と再び首を振るとソルトはじっと俺の目を見た後、ゆったりとした動作で俺の肩にかけていた手を下ろした。
「そうですか…。たまには文句ひとつ言わず、いつも家事をこなしてくれているツクダニさんへ、お礼の気持ちも込めて贅沢させてあげたいな…と思っていたのですが」
「……」
「ああ、お気になさらず。私は一人で飲んで来ますから。お土産、買ってきますね」
落としていた顔を上げ、いつもとは違う弱弱しい笑みを向けるソルト。
…そんな事考えてくれていたのか。
それじゃあ、と重い足取りで台所を後にしようとするソルトの背中を見て、俺は少し悩んだ後声をかけた。
「……わかった、一杯だけご馳走になろう」
「あ、本当ですか?嬉しいなぁ。じゃ、行きましょう!」
え。演技?
さっきのしんみりした空気はどこへやら。ソルトはパッと元の飄飄した笑みに戻ると、逃げられないよう俺の腕を取り素早く家の外へと歩き出した。