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英雄クロニクルや天呼でまったりプレイしている我が家の食卓(2liy)/天呼のダイス君(3745)文やらくがきをひっそりと上げる用
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2016.03.25 Friday


<パンナ視点/パンナの狂気の目覚め/微グロ>




「残金24000、ちょい…」

 

麻袋の中に入った硬貨を見て、はぁと重苦しい溜息をつく。平凡に生活していただけの私が、冒険者に憧れ、冒険者を目指してみようと一大決心をし、母国であるセリオンを捨てこのアティルトにやってきたのがつい三か月ほど前の事。冒険資金にと実家のパン屋で汗水流して働き麻袋一杯に貯めていたガッツも残り少なくなっていた。

というのも、私はここに来て冒険者として斡旋所に登録をしてから、一つも冒険者らしいこと…お金になるクエストが出来ていなかった。

それは、私だって初めはガンガンダンジョンに潜ってかっこよくモンスターを倒してお宝をゲットしようと意気込んでいた。しかし元々気の弱く、運動神経もそんなに良くない、力のない、平和に育って来た女がやっていけるほどダンジョンはそんな甘いところではなく。初めて潜った初心者向けのダンジョンでは、はぐれたオオコウモリに遭遇し逃げ回った挙句噛まれ、なんとか戻った町で結構な治療費を取られて終わった。

その後は少し慎重になり、自分でも出来そうなクエストからこなしてお金を稼ごうと毎日斡旋所や酒場に通った。そして三か月でなんとか達成したクエストといえば、「少し離れた森での薬草摘み」と「迷子の子犬捜し」、「ダンジョン周辺の池のサンプリング採取」。倒せたモンスターと言えば「下水道に沸いた大ネズミ」くらい。どれも一食分やっと食える程度の報酬の上ほぼ薬草代に消えて行った。

 

「ああ、駄目だなぁ。なんの為に町を出てきたんだか…」

 

何も言わず母国に残してきた母の顔を思い出し、少し泣きそうになりながらクエストが張られたボードを眺める。高額なクエスト程難易度が高く、命の危険が付きまとう物となる。一番低いモンスター退治の依頼でさえ「ゴブリン退治」、とても私には出来そうになかった。でもこのまま金にならないクエストを続けていては決心してここまで来た意味がない。資金が尽きて野垂れ死ぬのも母国にのこのこ帰るのも御免だ。

 

隣町への配達、草原に出没したドスジャギーの群れ討伐、初心者ダンジョンに出没したキラービースト、調理用のスライムの捕獲10

王都は初心者冒険者が集まりやすいだけに、簡単なクエストは大分持って行かれてしまっている。周りの冒険者がちらほらとクエストの張り紙を取って行く中、必死に出来そうなクエストを探しているとふとある張り紙が目に入った。

 

「西の森のダンジョン、鉱石採取

 

西の森のダンジョンと言えば、私がここに来たばかりの時に初めて潜った初心者向けのダンジョンだ。報酬は少ないがモンスターが出る分、ネズミ退治やら薬草摘みよりは大分高い。鉱石採取だけなら、モンスターの目を掻い潜れば私にも出来るかも知れない。

いや、これくらい出来なくてどうする。私はもう冒険者だ。

母国を出た時と同じ、決意を固めると勢いよくクエストの張り紙を剥ぎ取った。

 

 

***

 

 

クエストを受け、浅い森を進みダンジョンの前にやってくる。岩壁に開いた洞穴に、誰かがをくわえたのかボロボロになった木の板が張り付けてあった。恐らく町の人が間違って入ってしまわないようにとの配慮だろう。

入口からでも漂ってくる岩のひんやりとした空気に触れ、ごくりと唾を飲み込むと短剣を握りしめたまま恐る恐るダンジョンに入って行った。一歩足を踏み入れる度に狭い空間に足音が響き渡り、それをなるべく押し殺しながら歩く。

モンスターがいるダンジョンとは言っても、既に何百人との冒険者が足を踏み入れたところだ。隅に転がっている人工物であろうゴミを発見し少し気を緩めると、鉱石の採取ポイントまで急いだ。

ダンジョンの中層部にある泉の周辺にその鉱石がある。そんなに深いダンジョンでもないし、前回遭遇したオオコウモリの巣はもっと奥、はぐれオオコウモリに合っても1、2匹なら何とかなるはずだ。大ネズミだって倒したし…罠を使ってだけど

 

数十分歩くと目的地についた。途中、何らかの生き物の鳴き声が聞こえ震えながら進んでいたが、何も出会わずに良かった。

泉で乾いた喉を潤してから、採取キットを取り出し、泉周辺でぼんやりと光っていた鉱石を砕いて空の麻袋に詰める。岩を砕く音が周辺に響き、数分間採取を続け麻袋がいっぱいになりかけたあたりでふと周りの違和感に気が付いた。

ざわりと背中の産毛が逆立ち、肌がちりちりと焼かれるような。どこからか浅い呼吸音が聞こえてきて、鼻にさっきまでなかった獣の臭いを感じた。

 

「ッ!?」

 

しまった、夢中になりすぎた。

私がキットを投げ出し勢いよく立ちあがると同時に、岩陰から複数のキラービーストが襲い掛かってきた。恐怖で身体が固まり、判断を鈍らせた一瞬でキラービーストの一匹が肩に食らいつく。

 

「―――ッ!ぁあっ」

 

肩に熱と激痛が走り、思わず採取に使っていたツルハシをキラービーストにくらわせ引き剥がす。体勢を立て直すキラービーストを見ながら、考える間もなく採取した鉱石を全て置いて、全力で逃げ出した。真上から飛びかかってきたキラービーストの真下を潜り抜け、パニックになった頭で出口もわからないまま走り出す。

 

「はぁっはぁ!な、なんで…!!」

 

初心者ダンジョンにあんなものいるなんて聞いてない。そう頭に浮かんだところで、そういえば最近ここにキラービーストの群れが住み着いたから討伐してくれとのクエストが貼ってあったのを思い出した。馬鹿か、私は!

後ろから物凄い勢いで追いかけてくる気配がする。さっきのキラービーストは4,5体は居た。一匹でも難しいのに大型犬程ある野生の獣なんて倒せるはずがない。焼けるような肩の痛みと、止まらない血に一瞬死という単語が頭によぎらせつつ、必死に重い足を動かした。恐怖で心臓が高鳴り息切れが早く、肺が冷たい空気をいっぱいに吸って痛い。

ダンジョンは迷路みたいになっている。分かれ道でキラービーストを引き離そうと曲がり、進んだ辺りで足を止めた。

 

「は、…はぁっ、そん、な」

 

行き止まりとなった道に唖然としていると、早くもキラービーストが追い付いて来た。きっちりさっきの頭数通り。恐らく匂いや音で、分かれ道に惑わされる事なくついてきたのだろう。キラービーストでさえこんなに賢いと言うのに私ったら。

もう走る必要はないと言わんばかりに足を止め、じりじりと焦らすようににじり寄って来るキラービースト。赤い目がギラギラと光り、むき出しになった汚い牙から涎が滴る。

 

「は、はは…」

 

もう駄目だ。絶望感が身に押し寄せ一気に身体が重くなると、そのままふらりとその場に座りこんだ。壁に頭を預け、小さく笑いを零す。

私がまだ町娘で、セリオンに居た頃。町の子供が一人、ちょっとした冒険感覚でダンジョンに入りこんでしまった。それを探しに行った先でモンスターに襲われた。全長3メートルはある狼に、血の滴る牙を向けられた時の、あの恐怖を思い出す。探しに行った子供はすでに食われ、足元には死体が転がり、死ぬかも知れないと覚悟しながらも、目を閉じ現実逃避をすることも出来ず、ただ見入るようにやけに遅い狼の動きを見ていた。

ああ、あれとそっくりだ。

あの時は友達が呼んだ冒険者が来て、私を助けてくれた。でも今はそれも期待できそうにない。

 

「いっ、たぁ

 

無意識に傷口に当てていた手に力が入り傷が痛んだ。つけていたグローブは血で真っ赤に染まり、深く牙の突き刺さった肩からは脈打つ音と一緒にどくどくと血が流れ、マントと服を汚している。血を流したせいかさっきまで熱く痛んでいた頭が氷のように冷え切った。

これだけでも痛いんだから、あんな大勢に噛まれたら物凄い痛いんだろう。

きっと

 

さっきまで落ち着いていた心臓が、ざわりと動いた。急に叩くように強く脈打ち始めたかと思うと、暑くもないのに額から大量の汗が噴き出す。

 

嫌、だ

死にたくない

 

胸の中で、大量のミールワームがうじゃうじゃと蠢いているような、気持ち悪い感覚がする。喉に手を突っ込んで掻きむしりたくなるような感覚に襲われながら、私はゆっくりと飛びあがり、襲い掛かって来るキラービーストを、目玉が飛びださんばかりに見開きながら見ていた。

 

「あ……やだ、やだ…」

 

自然に声が零れる。大きかった心音は全身に広がり、脳みそを締め付けるように脈打っていた。血管がはち切れそうなほど膨張するのを感じながら、キラービーストの歯が、牙が、ゆっくりと、私に突き刺さり、

 

 

 

(死にたくない、死にたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくな―――――――――…!!!)

 

 

ぷつん、と音がして私の意識はそこで切れた。

目が覚めるとそこは町の診療所で、私は体中に包帯が巻かれ全身を襲う痛みに悶えた。どうやら意識を失った後、通りかかった冒険者に助けられたらしい。

その冒険者曰く。キラービーストの死体の真ん中で私が血まみれで倒れていたと。

キラービースト討伐報酬として置いて行かれた金貨を目にしながら私は首を傾げた。

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