<ツクダニ視点/ツクダニとソルト/微シリアス>
シオカラが負傷した。
まあ、いつもの事だ。いつものように遠征に出て、特攻して、怪我をした。利き手に出来た切り傷は、かすり傷と言うには少し深かったものの、縫うほどでもなく。家に戻って俺が手当てをして事なきを得た。
「ありがとーツクダニ」
いつもの調子で言うシオカラは、腕に巻かれた包帯を見て少し残念そうに、暫くトレーニングは中止だなぁ、と呟いた。
最初こそ、無謀に突撃しては返り討ちに合っていたシオカラも、最近では力業だけでは通用しないと痛感したのか、相手との力量を測り、戦い方も大分大人しいものになっていた。
それでも時々、こうした怪我をする事があった。
俺達を安全なところに置いて、いきなりスイッチが入ったように、本能に任せて突撃し出すのだ。もしかしたら考えてなのかも知れないけれど。
シオカラの腕に巻かれた痛々しい包帯を見て、少し眉を寄せる。
俺は、シオカラのこういう戦い方が嫌いだ。まるで好んで自滅しに行くような戦い方が。
「…ん?」
黙って部屋に居座り続ける俺にシオカラが首を傾げる。
そんなシオカラに、意を決して口を開いて、また噤んだ。
「……暫くは安静にしてろよ」
「はーい」
誤魔化すように救急箱を手に取り席を立つ俺に、シオカラは気にした様子もなく、斧の手入れを始めた。
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居間の棚に救急箱をしまって小さくため息をついていると、部屋で着替えをしていたソルトがやってきた。軽く目をやって、そういえば自分も土汚れと、少しシオカラの血がついている事に気が付いた。
早く洗わないと落ちなくなるな。ぼんやりとそう思ったがなんとなくすぐ動く気分にはなれなかった。
「あ、手当て終わりましたか?シオカラさんの具合どうです?」
「…さっき見た通りだ。ピンピンしてる」
俺の言葉に、良かったですねと安堵が混じった声色で笑うソルト。
ああ、大した怪我じゃなくて良かった。
そう考えて、怪我をしても笑っているシオカラを思い出して、同時に昔の事を思い出した。
「なんか、イライラしてますね。シオカラさんの事ですか」
断言した口調で、そう尋ねるソルトを一瞥する。
見透かしたような翡翠の目を、楽しそうに細めるソルト。しかしその声色には、先ほどまでの朗らかさはなく、どこか鋭さを帯びていた。
「前々から思ってたんですけど、何でツクダニさんはシオカラさんに何も言わないんですか?」
「…何をだ」
「そりゃもう、いろいろ。部屋片付けろとか洗濯物を散らかすなとか、」
…それと、怪我しないでほしいとか。
そう、してやったり顔で言われ、イラッと来て目を逸らす。
「……それは、守られてばかりの俺に言う資格はないだろ」
さっき救急箱をしまったばかりの木造の棚に向かってつぶやく。
シオカラは進んで怪我をするような戦い方をして、それを楽しんでいる節がある。
多分それはシオカラの本能的なところで、俺が変えられるものでもないし。止めれば、シオカラは俺を邪魔に思うだろう。正直、それが怖い
ならせいぜい、怪我をしないように俺が守ってやればいいと。そう思っていたのに
俺はまだ弱くて、策略を立てられる学も経験も力もなく、まだまだシオカラに守られっぱなしだった。呟いたきり口を閉ざす俺に、ソルトは大きくため息をつきながら髪をかきあげて言った。
「面倒な人ですね、あなた」
「……」
呆れたように言うソルトから、思わず目を逸らす。
「僕はここに来て半年も経っていないし、シオカラさんともツクダニさんとも他人かも知れない。けど二人の事は大切だと思いますよ。大切だから、出来れば怪我をしてほしくありません。
資格なんて、それで十分じゃないですか?」
「…………そうか」
言葉をもう一度噛みしめて、そうだな、ともう一度呟いた。
とりあえず、洗濯物でもしてからシオカラに言ってみよう