<パンナ+ラクターさん/パンナ視点/ほのぼの>
霞んだ目をこじ開けると、見慣れない天井が映った。
「…え?」
一気に寝ぼけていた頭が覚醒し、瞬きを何度か繰り返すと上体を起こし冷静に部屋の中を確認する。真新しいフローリングにアンティーク調の家具、まだ中身の詰まった荷物が床に転がり、今自分が寝ているベッドの隣ではガレットさんがすやすやと眠りについている。
ああ、そういえばラクターさんの事務所に引っ越してきたんだった。昨日仮拠点となったこの部屋に荷物を運びこみ、家主であるラクターさんに挨拶した事を思い出す。
ぐっと腕を大きく伸ばし血流を促すと、寝ているガレットさんを起こさないように静かにベッドを下りた。久々に気を抜いて寝れたからか体が軽い。まだ日が昇ったばかりのようだけど、とても二度寝する気にはなれなかったので軽く身だしなみを整えて部屋を出た。
なるべく足音を立てないように廊下を進み、おそらく家主であるラクターさんが寝てると思われる部屋の前に来た。
昨日は、確か二人でお茶をした後ラクターさんは夜中にどこかに用事があると言って出かけて行ったから、帰っているとすればまだ寝ているかも知れない。
…これからお世話になるんだし、朝食でも作っておこうかな
キッチンに移動し、昨日の夕食に使った残りのパンと卵を取り出す。皇国は和食文化だけど、生憎作り方を知らないのでフレンチトーストでも作ろう。
溶いた卵に砂糖を少量混ぜ、切った縦長のパンを浸し焼けば甘く香ばしい匂いが漂う。これだけだと物足りないかな、と普段は考えないような見栄を出し、余った生野菜でサラダを作りお皿に盛ったら完成だ。
「ラクターさん、朝食食べるかなぁ」
昨夜は三人分の食事になるだろうと食材を買いこんで来たのに、言い出す前に出かけてしまったし。食に興味が無い、というラクターの言葉を思い出し少し心配になる。
珈琲…はなかったので、昨日飲んだ茶葉でお茶を淹れていれながらそんな事を考えているとふいに廊下の向こうの扉が開き、軽い足音が聞こえてきた。足音の主は少し歩いたところで数秒立ち止ると、進路を変えたのかこちらに向かいひょっこりとキッチンを覗き込んだ。
「あ、ラクターさん。おはようございます。」
「ああ、おはよう。朝食の準備をしていたのか。」
「はい、キッチンお借りしました。」
ワイシャツとパンツスーツのみという、ラクターさんにしては珍しい格好に新鮮味を感じつつ挨拶を済ませ朝食を持つ。
「はい、どうぞ」
そのままラクターさんにフレンチトーストの乗った皿を手渡すと、これまた珍しそうにきょとんと目を瞬いた。寝起きなのか、少し乱れた髪のせいで幼く見えるその姿に思わず笑う。
「…?これは」
「ラクターさんの分です。一応作ったんですけど…食べますか?」
しまった、朝食を食べない人だったのかも知れない。心配になりつつラクターさんの顔を覗きこむと、ラクターさんは少し不思議そうにフレンチトーストを眺めたあと、考えこむように目線を動かした。
「ふむ…中々新鮮だね。誰かと頂く朝食というのも」
ありがとう、頂くよ。といつも通り、整った笑みを浮かべてお皿を受け取るラクターさん。
良かった、何か変な物作ったかと思った。ほっと安心して溜息を吐きつられて笑う。
「それじゃあ、ガレットさんはまだ起きて来ないと思うのでお先に頂きましょうか」
さり気なく私の分も受け取り運んでくれるラクターさんに続いて、のんびりとキッチンを後にした。