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英雄クロニクルや天呼でまったりプレイしている我が家の食卓(2liy)/天呼のダイス君(3745)文やらくがきをひっそりと上げる用
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2016.05.23 Monday

<パンナ+ラクター/パンナ視点>





雇い主であるランプさんに頼まれ、皇国へ輸送業務に来ていた。
先方から無事物は受け取ったので、とっとと帝国に戻って仕事を終えたい気もするけど、ここから帝国までは片道だけでも日数がかかる。日が傾きかけている今から出かけたら、オーラムにつく前に山奥で野宿になってしまうだろう。
食糧調達もしなきゃいけないし、今日は皇国で休んで行こう。
いつもなら安宿に泊まるところだけど、皇国には泊まれる宛てがあった事を思い出した。
かつては冒険者として一緒にダンジョンに潜り、今では傭兵稼業をしているラクターさんの事務所だ。
300年後のここで偶然にも再開し、昔のよしみで仮拠点の場所を提供してもらったのだ。
野宿続きで愚痴っているガレットさんと共に木造平屋の事務所に向かう。皇国には仕事がある時にしか来ないので、ここに訪れるのもひと月ぶりくらいになる。

「お邪魔します、ラクターさ…あれ?留守?」
「合い鍵貰ってるんだよね?早く入っちゃおうよ、ほら」

止める暇もなく私の鞄から鍵を漁り、締まっている引き戸を開く。
庭に雑草は生えていたものの、中は以前と変わらず小奇麗なままだ。殺風景ともいう。
やはり家主は留守なようで、事務所の中は薄暗く静まり返っていた。

「ああもう、勝手に入っちゃって…」
「いいでしょ、勝手に入っていいって渡されたんだから。
あーもう疲れた。長旅はやっぱ肩が凝るわ。私、先シャワー浴びて来るね」
「…はいはい」

小さな手荷物とポンチョを乱暴に玄関に投げ捨てると、ガレットさんはそう言い残してさっさとシャワールームに入っていった。そのままにしておく訳にもいかないので、ガレットさんの所持品を拾い応接室に上がる。
ラクターさんが事務所に訪れたお客さんの対応をするらしい応接室は、質の良いソファーと低いテーブルが置かれているだけの生活感のない部屋だった。
間取りも家具も部屋の空気も慣れない場所で、多少の居心地の悪さは感じるが、それでも馬車の中や地面の上で眠るよりはずっといい。
誰も居ない空間で静かに溜息をつくと、マントを脱いでヘッドバンドとゴーグルを取り、ソファーにどさりと腰かけた。

300年後の世界。家族もおらず私を知っている人もいなければ、私が見慣れている光景も殆ど残されていない。ガレットさんも私も、別にそれで元の時代に戻りたいと思う訳じゃないけど。
新しい物を見るのも変わった体験をするのも、国を転々とするのも冒険している実感が出来てとても楽しい。
けどやっぱり、急な環境の変化や肉体的な疲労は多少ストレスになってるのかも知れない。
自分にもそういう感情があるんだなぁと他人事のように考える。
何より輸送業務中に荒くれ者に襲われたり、国境付近で敵国の傭兵と間違われて戦争に巻き込まれたりして、最近は神経を張り詰めている時間が長かったのかも知れない。
ソファーにもたれるように頭を置いて、目を休めるように瞼を閉じると私はそのまま眠りに落ちて行った。

 

目が覚めると部屋は夕日で真っ赤に照らされていた。いけない、少し休んだら明日出る準備をするつもりだったのに。大分寝入ってしまった。
重い頭を振って身を起こすと、はじめて自分がソファーに横たわっていた事に気が付く。
あれ、座ったまま寝てなかったっけ。
身体には、半分ずり落ちて床についているが黒いジャケットが掛布団代わりにかけられていた。
見ると、無造作に折り畳んだだけで放置していたマントはきっちり畳まれ、向かいのソファーに荷物と一緒に置いてある。依頼主へ届けるはずの荷物と、ガレットさんの所持品は見当たらなかった。ガレットさんが回収して、私を寝かせておいてくれたのかな?
でも、こんなジャケット、ガレットさん持ってたかな。第一サイズが合わないし。
自分より一回り大きいジャケットを広げ、自分がどこに寝ていたのかを思い出した。ああ、ここはラクターさんの事務所だ。じゃあこれは、家主であるラクターさんのものか。

なんて事。誰も居ない屋内ということでついつい深く眠ってしまった。
私が寝ている間に、ラクターさんは玄関から上がり、応接室に入り、私が寝ているのを見て私に触れてソファーに横たえ、ジャケットをかけて立ち去っていったのか。

「ああ、だめだなぁ…これじゃいつ寝首かかれても文句言えないよ」

ラクターさんは一応知り合いだし、同業者だしそんな心配ないんだろうけど。冒険者として、戦いの中に身を置く者として一応自戒しつつ、ジャケットを返そうと立ちあがった。
書斎をノックすると、物音が聞こえ扉が開かれる。やっぱり、普通に気配はする。なんでこれに気づかなかったんだろう。
見慣れないウェストコート姿で、出てきたラクターさんは私を見るとおやと笑みを作った。

「目が覚めたかな。おはよう、よく眠っていたようだね」
「あはは…すいません、応接室で寝入ってしまって。ジャケット、ありがとうございました」
「構わないよ。ここは私の事務所であると同時に、君達の拠点でもある。自由に使うといいさ」

何の含みもない声でさらりとそう言うと、自然な動作で手を伸ばした。頭にラクターさんの手が触れ、絡まった髪を解くように指を通され、撫でつけられ、私はようやく触れられた事を理解した。あ、ラクターさん手袋してない。
ラクターさんの唐突な行動に何も反応出来ないまま、細い指が離れて行くのを見送る。

「明日、ここを発つそうだね。」
「あ…はい。折角部屋を貸してもらったのにあまり利用できなくてすいません」
「何、気にする事はない。繁盛しているようで何よりだ。皇国を訪れた時にでもまた立ち寄ると良い。」

そう優し気に、どこか冷やかしを受けた商人が心無い営業スマイルを浮かべるように笑って言うと、私から受け取ったジャケットを羽織って横をすり抜け、少しばかり出かけてくると言い残して立ち去っていった。
冷たいんだか優しいんだかわからない人だ。
でも害がないのは確かなんだろう。敵意がある行動なら、無意識にでも反応出来るから。
触れられた髪を上書きするように撫でつけながら、また静かになった事務所を見回した。夕日もすっかり沈み、灯りの付いてない事務所は影を落としている。
寝る前に感じていた居心地の悪さが少し和らいだのを感じながら、戻ってきた眠気に小さく欠伸をした。
…とりあえず、シャワーでも浴びて来よう。

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