<パンナ/心理描写>
ああ、ついてない。
崩れた外壁に背中をつき、地面の雪を掴んで頬張ると、外套に口を押し当て、乱れた息を整える。
かつて、ブリアティルトが一つの国だった時代の名残。
帝国と中央国の間に位置する、瓦礫の山で始まった交戦。
本来なら、綺麗に隊列を組んだ防衛を崩すだけの、簡単な遠征だった。
それがまさか、増援が来るなんて思わなかった。
向こうは近接アタッカー3、遠距離攻撃3、範囲攻撃1、くわえて防衛1人にリーダー含めた支援型二人のガチ編成。
対してこちらは、防御力の薄い拠点を叩くだけの少人数編成だ。
戦力差は明らか。
ランプさんの指示で撤退する事になった私達は、攻撃を受け散り散りになり、
追いかけられた私は逃げ損ね、こうして一人で身を潜める羽目になった。
あれからどれくらい時間が経っただろう。
真っ白に染まった空は時間の感覚を狂わせる。
皆は無事だろうか。
空を見上げると、戦闘開始時にははらはらと振っていた雪はどんどん強さを増している。
逆にこの吹雪が姿を隠してくれるだろう。きっと大丈夫。
ナイフを強く握ったまま悴んだ手を開き、動かす。
首に手を当て指先を温めながら、ふと下げていた指輪に触れた。
(…ラクターさん)
皇国に居た頃、庭先の雪を見て、遊んで、三人で暖かい鍋を囲んだ事を思い出す。こんな時に呑気だなぁと小さく笑う。
(前線に出るって言った時、ラクターさんには凄い心配されたけど、なんかその心配通りになっちゃったな)
実際、事務所でメリエンダとして活動してた頃より生傷は増えている。力を抑えすぎてやられたり、暴走して自滅したり。
ランプさんやガレットさんの指示で、自分の力でも及ぶ範囲で、遠征に出ているというのにこの為体。
その上うっかり出くわした敵に囲まれて、逃げ損ねて、大怪我なんて負ったら、オーラムに連れ戻されそうだ。
(よし、ラクターさんには内緒にしとこう)
その為にも、ちゃんと生きて逃げ帰らないと。
風に混じって聞こえる雪を踏む音に、ナイフを持ち直す。
敵は二人。偵察に送られてきたアタッカーだろう。もしかしたら遠くから狙撃手が見ているかも知れないけど。
ここは幸い死角の多い拠点。視界も悪いし、真っ向勝負は無理でも、不意打ちはモンスター相手にもよくやっている。
手も暖まった。大丈夫。
大分落ち着いた胸を撫で、外套の上から指輪に触れた。
「大丈夫、大丈夫」
それじゃあ、またいってきます。ラクターさん。