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英雄クロニクルや天呼でまったりプレイしている我が家の食卓(2liy)/天呼のダイス君(3745)文やらくがきをひっそりと上げる用
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2025.06.18 Wednesday
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2016.06.06 Monday

 
<ソリレス+ランプ/ランプ視点/微妙にすけべ>




当てのない旅に同行者が増えてから一月程経った。

彼女の名はソリレス。一介の旅人に過ぎない私に弟子入りを志願してきたおかしな子。

ご愁傷さまにも国が滅んで宛てがないそうで、弟子入りを断り続ける私にしつこく付きまとい勝手についてきている。これでは同行者ではないのだけど。はじめは「そのうち諦めて離れて行くだろう」と存在を無視し続けたりもした。会話もせず食事も別で取り、新しい世界で通過を得る手段を持たない彼女を放って、リブと二人宿を取ったりもしたものだが、それでも不満ひとつ漏らさずみすぼらしいなりで、黙って後ろからついてくる彼女に流石に良心が痛みやめてしまった。結局私が折れて彼女の同行を許してしまった訳だ。

関わってみると彼女はとても献身的だった。名前を呼んだだけで弾んだ声で返事をし、命じればお茶汲みから戦闘まで何でも私の代わりにしてくれる。一言礼を言えば国王から報酬でも賜ったかのように傅いた。そういえば、彼女は騎士だったかな。さぞ良い部下だったのだろう。

義眼では彼女の姿を確認しようはないが、自然と頭の中で二足歩行の犬でもついてきてるのだろうと想像して一人笑った。

設定された反応パターンしか持たないリブとの二人旅が一気に賑やかになったのは事実だった。

 

 

弟子入りを認めた訳ではないが、私が隙をついて彼女を置いて逃げない限り、彼女は私にずっと付きまとうだろう。ああ、今思えば始めのうちにそうしておくべきだったのだけど。関わっていくうちに三人旅も良いかと気まぐれ程度に思い始めていた私は、気づけば談笑をしながら食事を一緒に摂り、彼女と同じ宿を共にするようになっていた。

ここは何と言った世界だったかな。そこそこ文明も発達しているが緑の多い、空気の良いところだった。木や井草の香りが漂う宿は静かで、穏やかな気持ちにさせてくれる。窓辺で晩酌をしながら夜風にあたってると、後ろで布団を敷いていたソリレスが声をかけてきた。

 

「師匠。寝具の準備は整いました。もう就寝なされますか?」

「いや、お酒が残ってるからね。まだ起きてるよ」

 

小さな陶器の器に入った酒を傾けて見せる。麦ではなく米で作られたらしい酒は口当たりがまろやかで香りも良い。

このままソリレスを先に寝かせ、一人酒を続けても良かったのだけど。気まぐれだろうか、美味しい酒を誰かと共有したくなったのかも知れない。私はこんな事を口にしていた。

 

「君、お酒は飲めるかな?」

「え。…ああ、はい。あまり強くはありませんが、一応」

「そうか。一緒に少しどうかな、たまには」

 

にこりと微笑み問う。こんな誘いをしたのは初めてだからか。いつもは二つ返事なソリレスが、少し戸惑った様子で口ごもると、少し間をあけてはいと小さく答えた。

やはり私の少し後ろに慎ましく座る彼女の方に身体を向け、空いていた器を渡して酒の入った瓶を傾ける。

 

「では、頂きます」

「はい。召し上がれ」

 

改まった様子で、喉を鳴らしながら酒を一口二口と飲んで行く。それを確認してから、私も器に残った酒を一気に喉に流し込んだ。空になった私の器に、今度は彼女の手から酒が注がれる。女性にお酒を注いでもらうなんていつぶりかな。…ああ、奥さんと飲んで以来か。

この宿の穏やかな雰囲気のせいか、酒の魔力か、ふと昔を思い出し感傷に浸りたい気分になった。

苦笑いをし、気分を誤魔化すようにソリレスに問いかける。

 

「清酒と言うんだって。宿の人に勧められて買ったんだ。どうかな」

「ええ、変わった香りですがとても美味しいです。結構強いんですね」

「ああ、こうやって異国の文化に触れていると旅をしているって実感するね」

「はい。国から出たのははじめてで色々な物が目新しくて楽しいです」

 

緊張がほぐれた様子で穏やかに話すソリレス。その声には国が滅んだ事への憂いや、まして滅ぼした張本人である私への怒りや憎しみもない。純粋に旅を楽しんでいる様子だった。別にその事を謝罪するつもりもないが、ふと彼女の様子に違和感を抱く。

 

「君の国ってどんなところだったのかな」

「…良いところでしたよ。暖かく、笑顔に溢れた平和な国でした。」

 

懐かしむような口調。

だが、その話は私が感じた彼女の国の印象とは大分変わっていた。

王宮の中心の街は確かに活気に溢れ、一見すると賑やかで平和な町に見えた。しかし一歩路地裏に入るとすえた異臭が漂い、みすぼらしい子供が盗みを働くために声をかける。そんなところだった。

 

「君は自分の国が好きなんだね」

「ええ、勿論。…結局は護り切れませんでしたが」

「では何故私に仇討ちをしようと思わないのかな」

 

私の言葉に酒を飲む手が止まったのがわかった。

大好きでずっと護ってきた自分の国を滅ぼした男。そんな男に弟子入りをしてついていくなんて何か裏があるに決まってるじゃないか。寝こみを襲ったり、背後から剣を突き立てたり。そう警戒しながら泳がせていたのに、この一月彼女は全くその様子を見せなかった。旅が楽しいという言葉にも、国が大事だという言葉にも嘘偽りがない。殺気を隠してこの態度を取っているなら随分な食わせ物だ。

しかしそう問いかけても、彼女の雰囲気は緩やかなままだった。

 

「お仕えしている師に刃を向けるなどとんでもない」

 

嘘偽りのない、なんの含みのない確かな声。

 

「弟子入りを志願した時に申した通りです。国が滅んでしまったのは私の力不足。滅んでしまった国に出来る事は、復讐に身を焦がす事ではなく、二度とそのような事を起こさぬよう、力をつけることです。そして私の防衛を破り、国を滅ぼした力のある貴方こそ仕えるに相応しい。」

「感情論を排除した理屈だね。負けた国の傘下に入る、という感じかな」

「ええ。…仕える以上、私は貴方を裏切らない。貴方に尽くし、身も心も捧げ、必ずお護りします。」

 

器を置き、畳をすりながら、空いていた距離を静かにつめるソリレス。

ソリレスの纏う空気が怪しく揺らぐのがわかった。ゆるりと腕に細い女性の手が触れる。

酒を飲む手を止め、抵抗しないまま様子を伺う。

 

「はは、確かにこの一月。君は私に良く尽くしてくれたけど。信用出来ると思うのかな」

「疑うのも無理はない事。ならば、師匠の納得の行くまでお確かめください」

「…うん?」

 

女性でもエスコートするように手を取られたかと思うと、そのままゆっくりと持ち上げられ、柔らかく包まれる。

 

「何なりと、ご命令を」

「…ッ」

 

懐かしい感触に驚き、後退るも壁に頭がついてしまう。ソリレスはそのまま私を追い込むようにさらに距離を縮めた。私の手を、自分の胸から顔に触れさせ、手の甲に唇をつけていく。

 

「何を…」

「貴方に従い、尽くす。どうぞそれをお確かめください。師匠が死ねと仰るなら、今この場で喉に剣を突き立てて死んで見せましょう。師匠がこの国に用はないと仰るなら滅ぼしてごらんに入れましょう。…師匠が御慰みをお求めなら、どうぞ私の身体を好きにお使いください。」

 

耳元に顔を寄せ、恋人に語り掛けるように熱っぽく囁くソリレス。昼間の犬のように人懐こく、はつらつとした彼女からは想像出来ない女の色気。そういえば、彼女に触れた事は初対面で戦って以来かも知れない。

触れた事で、今更この声の主が、きちんと女の身体を持っている事を思い知らされる。

細い指に女性特有の甘い香り、身体に押し付けられる豊満な胸。

暫く忘れていた噎せ返るような色情の雰囲気に呑まれ、一瞬言葉を失う。

 

「君の国では、これが忠義の表し方だったのかい?」

「ええ。忠誠を誓い身も心も捧げるのは当然でしょう」

「…女性がそんな滅多な事を言うものじゃないよ」

 

彼女の物言いにすぅと頭が冷え、小さく溜息をつく。取られていた手で、ソリレスの頬を撫で首筋に指を当てた。

 

「ソリレス。君、実は大分酔ってるね?」

「……、ふむ。そうかも知れません」

 

指から伝わる脈と体温で、やはりと唸る。やや冷静になった口調で考え込むソリレスの肩に手を当て、押し当てられていた身体を遠ざけると軽く頭を撫でた。

 

「君はあまり人前でお酒を飲むべきではないかもね」

「…それが、ご命令ですか?」

 

不思議そうに首を傾げ問われる。ああ、本当に、彼女にとっては命令されそれに何の疑問も持たずに従う関係が普通なんだな。冷静でありながら熱に浮かされたような言動。彼女があの国でどんな生活を送っていたかなど想像に容易い。まだ若い子だろうに、歪んだ常識を植えつけられ、それに疑問を持ってない。

だからと言って私がした事が正当化される訳ではない。

同情はするが、私に彼女の価値観を変える権利も、また義理もない。他人の事にかまけていられるほど、私には心の余裕がないんだ。

 

「…もう寝なさい、ソリレス」

 

手を離し、一言そう命令すると、ソリレスはまた不思議そうに首を傾げつつ、はいと一言呟き礼をしてから床についた。暫くしてから聞こえてくる、安らかな寝息を聞いて項垂れる。それを聞いてはじめて、ずっと布団の上に寝かせ電源を切っていたリブの存在を思い出した。人の気配が常に一緒にあるなんて数年ぶりで、それが居心地よくて、気配のないロボットであるリブの存在が抜け落ちていたのだ。

ああ、やはりこの娘はあの時置いて行くんだったなぁ。

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