少し長いもの
<ツクダニ視点/少しグロイ>
真っ暗な空間で、俺はひたすら鍬を振り上げる。
足元に転がる黒い物体に向かって鍬を振り下ろすと、ぐちゃ、と肉を潰すような嫌な感覚が腕に伝わった。
赤いものが飛び散り服の裾を汚す。それでも構わず俺は鍬を振り上げる。
「消えろ、消えろ、化け物…」
喉の奥から絞り出すように唱え続ける。
耕された化け物は、既に原型をとどめてなく、裂かれた腹から中身をぶちまけながら、それでもまだ僅かに動いていた。
折れた歯の隙間から蚊の鳴くような声が聞こえる。
「ぁ、ずげ」
紡がれた言葉をかき消すように、俺はまた鍬を下した。
ぎょろりとした眼球が俺を見上げる。化け物は親友の目の色と同じ目の色をしていた。何故そんな怯えたように俺を見る?
ガチガチと鳴る歯を必死にこじ開けて、化け物は声を発した。
「この化け物…ッ!」
よく見ると、足元に転がっているのは化け物ではなく親友だった。
そこでようやく自分の手が歪に変わっていることに気が付いた。
そうか、化け物は俺だったのか。
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「……」
と、いうところで目が覚めた。
視界に入るのは黒い空間ではなく、見慣れた木造の天井。
少し視線を動かしてしっかりと、自分の部屋だということを確認すると、俺は高鳴った心臓を落ち着けるように詰めていた息を吐き出した。
夢だ、あれはただの。言い聞かせるように左手に触れて、枷がない事を思い出す。
…落ち着かない。
あれはこの世界に来た当初、何度も繰り返し見た夢だ。
それもシオカラの部隊に入ってから収まっていたというのに、最近、また夢に見る。
「…シオカラ」
何でもいい、気を紛らわしたい。
俺はふらつく足取りでベッドから出ると部屋を後にした。
居間に行くと誰もいなかった。
というより、家の中から人の気配がしなかった。
ゆっくりと辺りを見渡しても、見えるのは薬箱の入った棚と、ちゃぶ台と、質素な部屋を彩る黄色の花だけ。
うちの景色が味気ないのも、人がいないのもいつもの事なのに、何故か嫌な予感がする。
「…まさか、ダンジョンに行ったのか…?」
呟くが早いか、俺は転ぶようにその場から駆け出した。