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英雄クロニクルや天呼でまったりプレイしている我が家の食卓(2liy)/天呼のダイス君(3745)文やらくがきをひっそりと上げる用
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2025.06.18 Wednesday
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2016.11.06 Sunday



<パンナ+ガレット/賞金稼ぎパロ>





祭りのように賑わう、王都アティルトの市場。
商人と客が景気よくやり取りを交わす雑踏の中、二人の女が果物屋の前で足を止めていた。
果物売りの女性と会話をしながら、つるりと赤い林檎を手に取る。

「いた?」
「はい、今すれ違いました。」

背中の人通りを振り返りもせず、隣の女が頷いた。
ふわりとした金髪の中で、口元に弧を描く。

「やっと見つけた。賞金首、アロット・オロー」
「強盗殺人及び薬物所持…単独正犯にしては久々の大物ですね」

穏やかな口ぶりで語りながら、女がマントの中に手を入れたのを見逃さなかった。…また悪い癖を。
呆れたように鼻を鳴らしながら、手の上で林檎を弄び白い裾をふわりと翻す。

「殺気だって見つかるんじゃないわよ?こんなところで騒ぎ起こす訳には行かないんだから」
「あはは、わかってますって。それじゃ、行きましょうか」

相棒の忠告を笑顔で受け流しながら、女は背後に回した手をするりと抜いた。
手には小さながま口財布を持って。

「おばさん、林檎一つください。」

 

 

かつてオーラム王国により統一されていた大陸は、正規の歴史よりも早々に、君主制から共和制に切り替わり、統治の効率を得る為領土を5つに分割し、各領土に責任者を置いた。
独立という形で建国されなかった5つの国は群として、風土や資源など土地ならではの特色を伸ばしつつ、大陸は戦争も起きる事なく。
英雄を生み出すという役割を失った黄金の扉はただの伝説となった。

一見平和に刻を刻んでいるブリアティルトも
悲しい事に、争いと言うのは形を変えてどこにでも生まれるものである。

町を武力で統括する組織犯罪集団に、冒険者から成り下がり力を持て余した荒くれ共。
貧困層による軽犯罪から生粋のサイコパスまで。
群一つにつき、殺人犯罪だけでも一日40件以上。
その有様に手を焼いた騎士軍は、彼らの首に懸賞金をかけた。
そしてその賞金首達を狩るのが、彼女達賞金稼ぎである。


(10m先… 少し近いかな)

人混みの向こうに見える影を追いながら、さりげなく歩を進めて行く。
少年のようにばっさりと切られた短い髪に、所々繕われた跡が見えるくすんだ色の身頃の外套。
とても年頃の町娘には見えない姿だが、少女のその姿が町から浮く事はない。
それ程までに少女――パンナの足取りは自然であった。

「ガレットさん、ちゃんと見てるかなぁ」

別ルートでオローを追っているであろう、可愛らしい相棒の姿を思い描く。
彼女達は駆け出し賞金稼ぎだった。二人でコンビを組んでから半年、今まで捕まえた賞金首はたったの5人。
しかもどれも20万Gを越えない小物ばかり。
何せC級以上ともなれば組織で動く賞金首が多くなってくる。経験値も戦力も足りない彼女達には厳しい。
生活費や移動費、武器の整備で資金はどんどん減っていき、今や今日の夕食すら賄えるかわからない。
二人は今回の仕事に賭けていた。

何せ今追っているオローは50万ガッツの賞金首。
中級者からすれば小物も小物だが、今の二人にとってそれは大金だ。
オローを捕まえる為に動き始めて半月近く。
犯罪歴を調べ次の出現ポイントを予測し、地道に足で調べてここまで来た。

手持ちのお金は先程の林檎でなくなった。もう後戻りは出来ない。
決して失敗する訳にはいかない、まさに命懸けの仕事だ。別の意味でだが。

市場を抜け、商業街に出る。人混みは少なくなり、薄暗い路地が増えた。そろそろだ。
ガレットとの『待ち合わせの場所』近くになり、パンナは背中にくくったナイフの柄に触れた。
誘導は簡単だ。相手は単独で犯罪を繰り返し、自分の力を過信している賞金首。
そこに女の賞金稼ぎが現れればほいほいとついてきてくれる。金を匂わせればなお効果的だ。
今だ、と動きだそうとしたその時、今まで真っ直ぐ歩いていたオローが突然立ち止った。

「……!」

バレたか?
思わずその場で足を止める。だがオローが見ている先は違うようだ。
真横の路地裏に真っ直ぐ視線を向けている。
ここからでは死角になって見えないが、どこか驚いた様子で何かを呟いている。
オローが大声を上げて走り出した。

「うわ、な、何!?」

流石に驚いた。慌てて走り出したオローを追いかける。
外套を靡かせながら、走りざまにオローが見ていた路地裏に目線を向けたが、そこには何もなかった。
だがオローは何かから逃げている。

後を追うパンナにも気づかず、オローは息を乱しながら建物の影に逃げ込んだ。
人目に付かないなら好都合だ。
パンナはマントの下からナイフを抜きながら、目標が逃げ込んだ角を曲がった。
そこは日も当たらない、真夜中と見間違うような暗い路地裏だった。


「――――!」


慌ただしい足音も、男が漏らしかけた悲鳴も、一瞬で掻き消え、静寂が辺りを支配する。

そこには一人の女性が立っていた。
男物のスーツに身を包んだすらりとした長身の女性。
ハットも、タイも、ベストも、パンプスも、全てが喪服のように黒で統一されており、影の中で、白い顔だけがやたらとはっきり見えた。


「……葬儀屋、さん…?」
「…ふむ!冥土への旅路の手伝い、という意味では同じかも知れないね」


―――尤も、私は弔いなどしてやらないがね
足元に転がるオローの死体を踏みつけながら、スーツ姿の女は愉快そうに微笑んだ。

そこでようやく足元の惨状が目に入ったらしい。
レンガ造りの道に広がる血だまりに、目標の死体。
パンナは一気に警戒心を強め、女にナイフを向けた。

「やれ、困ったね。君達に見つかる前にこの男を回収する予定だったのだが」
「そいつを殺したのは貴女ですね。何故ですか」
「説明すれば戦闘を回避できるのかな?宜しい。
彼は私の顧客でね。組織に加入したいというから斡旋をしたのだが、斡旋した先で組の目を盗み、薬物を持ちだした。
言わば裏切り、契約違反だ。おかげで紹介をした私の名にも傷がついた。」

ナイフを突きつけられて尚、綺麗な笑みをつくり淡々と語る女。
その口ぶりからは怒りも焦りも、パンナへの警戒心すら見えない。
死体を転がし、オローを仰向けに寝かせると女はやっと足を下ろした。

「この人が悪い人だってのはわかりましたけど…殺したら貴女まで賞金首になるんですよ」
「死体が見つかり、足が付けば私も追われる身になるだろうね。だが私はこう見えても綺麗好きでね」

するり、と女が懐に手を入れた。
口封じの為私を殺すつもりか。警戒心を強め、腰を落とす。
しかし、懐から取り出されたのは一枚の色褪せた羊皮紙だった。
蝋を砕き紐をほどき、はらりと開かれた紙。そこには何も書かれておらず、まっさらな面が風にさらされただけだった。
だがそれも一瞬の事。
風で紙が揺れ、パンナから表が隠れた僅かの間に、面が黒く塗りつぶされた。

ホースを塞ぎ留められていた水が一気に吹きだすように、黒い影が羊皮紙からあふれ出す。
黒い影はレンガの地面に叩きつけられると飛沫を飛ばしながらスライムのように辺りに広がり、転がった男を飲み込んだ。
一歩後退るパンナを他所に、黒い影は血だまりを飲み込み、パンナの足元で止まる。

女が小さく何か呟いた。
その声に反応するように広がった影がするすると羊皮紙に戻っていく。
地面が元のレンガの色を取り戻した頃には、オローは垂れ流した体液ごと綺麗さっぱり消えていた。

「…えっ!?」
「それでは、失礼するよ。賞金稼ぎのお嬢さん」

羊皮紙を巻いて懐に仕舞うと、女は綺麗な笑顔を作って優雅に頭を下げた。
パンナが女を止める間もなく。
こつり、とヒールの音が一つ路地裏に響き、女は影の中に掻き消えた。


「――パンナ!」


世界から音が消えたかのような静寂の中、慌ただしい足音でパンナは我に返った。

「…全く、”待ち合わせ場所”に来ないから尾行に失敗したのかと思ったじゃない」 

珍しく慌てた様子でパンナに駆け寄り、傷一つ負っていないパンナの姿を見て、どこか安堵したように息を吐くガレット。
そんな相棒の姿を見て、パンナは強く握っていたナイフを下ろした。

「ガレットさん…」

さっきの出来事は夢だったのだろうか。
人の気配どころか血の匂いすら残っていないそこに目を向ける。
暗闇のようだと思ったそこは、改めてみると十分に日が差し込む薄暗いだけのただの路地裏だ。
茫然とした様子のパンナを見て、ガレットは首を傾げた。

「何やってるの、こんなところで…獲物は?」
「…………あ」

何があったのか、混乱した頭ではすぐに説明出来ようもないが、
ただ一つだけ、はっきり言える事があった。

「取り逃がしました…」

今日の夕食はお預けだ。


 

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