<パンナ+ガレット/戦闘/流血あり>
あー、やばいわこれ。絶体絶命。
6人編成での小規模ダンジョン探索。
出現するモンスターのレベルも高く、駆け出しには中々の難易度と評判のそこに向かう為、私達は斡旋所でそれなりのメンバーを揃えて、探索に望んだ。
道のりは順調だった。
モンスターの出現も少なくトラップにも引っかからず、珍しく宝箱でも金目の物が手に入って。
気を良くした面々は調子に乗って、そのまま深い層まで足を踏み入れてしまった。思えばそれまでは運が良かっただけだった。
最下層で待ち受けていたワイバーンの群れに不意をつかれ、なけなしの金を積んで揃えたパーティは半壊。
正義感溢れる一人が仲間の仇と刃を向けて尾で弾かれ、動転して逃げようとした一人が呆気なく食われた。
かくいうガレットも、決して無事とは言い難かった。
いつも身綺麗な服は土埃で汚れ、破け、銃弾も威嚇の為に発砲したせいで残り僅かだ。最後の弾倉をセットし、舌を打つ。
割れたランタンの火で照らされるダンジョン内。
岩の向こうでは死体に群がってワイバーンが楽し気にお食事会をしている。
しかしガレットが焦っているのはそこでは無かった。
「何やってるのよ、あの子は」
死肉を貪るワイバーンを目の前にして、逃げも隠れもせずただ立ち尽くしている影が一つ。
数か月前にパーティを組んだ駆け出し冒険者の少女、パンナだ。
彼女の我が身を顧みない戦闘スタイルが、後援である自分の戦闘スタイルと合い、一時限りと組んだのだが今の彼女にいつものような攻撃性は見られない。
大振りなナイフはかろうじて指にぶら下がっているように、力なく下ろされ
茫然と仲間が食べられていく様子を見ている姿は、次の食事に自分の身を捧げているようにも見える。
「とっとと逃げなさいよ…置いてくわよ」
この距離では届かないと知りつつ、小さく口に出す。
相手が「仲間を置いて行けない」とかいう綺麗ごとばかりの馬鹿か、腰を抜かしただけの下衆だったらどんなにいいか。
ガレットは世間知らずなただの少女であるパンナを簡単に切り捨てる事が出来なかった。
ようは逃げるタイミングを逃した訳だ。
だがこの数相手に二人で倒せるとも思えない。なんとかパンナを救出し、隙を作って逃げないと。息を整え、スライドを引いて銃を構えた。
残った獲物に気づいた一匹が、鼻をひくつかせのそりとパンナに近づく。
ガレットが岩陰から飛び出そうと動いたその時だ。
空気が一瞬、揺れた。
「――――ぁ」
パンナの口から小さく漏れた声。
それは獣のような咆哮に変わる。
「ぁ、あ ぁあぁぁああああ!!!」
咆哮は壁に跳ね返り、反響する。鼓膜を容赦なく揺さぶる声に堪らず耳を塞いだ。何事かと食事を中断し慌て出すワイバーン達を他所に、咆哮の波は静まった。
余韻を残しながら、寒気がする程の沈黙が洞窟内に広がる。
パンナの足元がぴしりと音を立てて罅割れた。
重く地面を蹴る音がして、次の瞬間パンナはその場にはいなかった。
パンナに近づいたワイバーンの首が、目を瞬く間に落とされる。
レッドドラゴンに比べれば大分細いが、それでも固い鱗で覆われている首を、リーチの短いナイフで、一撃で落とせる訳がない。
洞窟内に血の雨を降らせながら崩れ去るワイバーン。
その雨の中パンナは力なく膝をついていた。
シャウティング効果。
叫ぶことでアドレナリンを増幅させ、強制的に臨戦態勢に入り、リミッターを完全に外しきったのだ。
ゆらりとパンナが立ちあがる。
「……あー、やばいわ、これ…」
心底楽しそうな、いつもの狂気に満ちた笑い声もなく。
天井高く飛びあがるワイバーンに跳躍し飛びつき、ナイフを突き立てる姿はとても人間とは思えない。
ただでさえ戦闘中は声が届かないのだ。
こうなっては、パンナの前にうっかり出ただけで殺されかねないだろう。
向かってきた牙を正面で受け止め、顎を砕き、
飛んできた尾に飛び乗り背中を突き、
自分の骨が砕けるのも気にせず拳を繰り出すパンナの様子を見ながら、
岩陰でガレットは笑みを引きつらせた。
「どーすんのよ、これ。誰が止めんの?」
絶体絶命だ。