ながーい!
<シオカラ視点>
「とは言っても、こっち圧倒的に攻撃力が足りないんだよねぇ」
とりあえず冷静になって手持ちの物を確認する。
アタッカーは私一人。ただし武器がなくてあの固い鱗を持つドラゴン相手じゃ攻撃力がほとんどない状態。ソルトさんも一応札で攻撃出来るけど、目くらまし程度にしかならない上ドラゴンの素早さならタイミングを合わせないと余裕で避けられてしまう。ツクダニも攻撃の短剣持ってきたみたいだけどほぼ戦力外。
「使えるのは爆弾くらいかな。それで気を引きつつ小松菜を回収して…」
「あ、すいません。爆弾落としてきちゃいました」
「何やってるのソルトさん」
頭をかきながら照れ笑いを浮かべるソルトさん。
どうやらさっきの落石でばらまいて来ちゃったらしい。拾えたのは一つだけ。多分爆発してないから散らばった奴も拾えば使えるかもしれないけど、どうしようかな。
少し顎に手を当てて考えた後、私は手のひらを打って悪巧みをするように声を潜めた。
「よし、じゃあこうしよう!」
ランプの灯りを強めて、ツクダニが岩陰から飛び出した。
爆弾が散らばっているあたりまで走ると、短剣を構えて力を込める。
剣先に光が集まり、洞窟内が昼間のように照らされる。集中する魔力に気が付いたのか、ドラゴンがツクダニの方を向いて唸った。
ドラゴンが動き出す前に、ツクダニは集めた光をドラゴンに向けて一気に放った。
ドラゴンに向かって光が真っ直ぐ伸びてゆく。しかし、光はドラゴンに当たることなく、尻尾を振るわれただけであっさりかき消されてしまった。
ドラゴンが固いのもあるんだけど、うん、まあ。
その攻撃で、自分の目を潰したのがツクダニだと気付いたのだろう。
ドラゴンが洞窟内を震わせるように大きく吠えて飛び上がった。
その隙をついて、私は岩陰から一気に駆け出した。
ツクダニを囮にして、小松菜を回収する!
洞窟内を駆け抜け、ぐんぐんとツクダニとソルトさんから離れていく。
駆け出した私にも気づかず、空中を二三度旋回し間を取ったドラゴンは、咆哮を上げながらツクダニに向かって勢いよく滑空し始めた。
大きな翼が風を切り、洞窟内の空気の流れを変える。
ただ、怒りで相当頭に血が上っているようだ。さっきまでの不意打ち的な攻撃ではなく、真っ直ぐツクダニに突っ込んでいってる。
ドラゴンがツクダニに迫り、地面に散らばった大量の爆弾と位置が重なった瞬間、予定通り、ソルトさんが動き出した。
「さ、いきますよ」
ソルトさんが両手を翳すと、ドラゴンの姿が空中でぐにゃりと歪んで、消えた。
それと同時に洞窟内に轟音が響き渡る。地面が抉れ石が辺りに飛び散り、砂埃が洞窟いっぱいに巻き上がって視界を煙らせた。
ソルトさんは「ドラゴンと落ちていた爆弾の位置を入れ替えた」のだ。
空中を勢いよく飛んでいたドラゴンは、勢いはそのまま、地面に頭から突っ込みのたうち回った。
ドラゴンと位置が入れ替わった無数の爆弾が、少し間をおいてバラバラとドラゴンに降り注ぐ。
ツクダニが手元に残っていた爆弾に、ランプの火を近づけた。
「シオカラ!!」
「わーってる!!」
視界に小松菜が見え、私は足を速めた。
大きな岩を飛び越え、岩陰で突き刺さっていた小松菜の柄を、今度は離さないようしっかりと掴んだ。
凄い久しぶりだね、お帰り。
「いくよツクダニ、ソルトさん!いっせーの!」
ツクダニが火のついた爆弾を、ドラゴンの真上に降り注ぐ爆弾に向かって放り投げた。
起爆した爆弾に連鎖して、爆弾が次々に破裂していく。熱風が巻き起こり肌をちりちりと焦がし、洞窟内が大きく揺れた。
小さな爆弾とはいえ、あれだけの数を直に受けたドラゴンは悲鳴を上げて悶えた。虫のように地面を蠢き低くうめき声をあげている。でも、まだ生きている。そこを
「シオカラさん、お願いします!」
岩に飛び乗り足場を蹴って大きく飛び上がると、ぐらりと視界が歪んだ。ソルトさんの立ち位置入れ替えで飛ばされた私は、爆風の中にいた。真下にはのた打ち回りながら浅く呼吸をしているドラゴンがいる。
ドラゴンの金色の目と目が合い、固く握っていた小松菜の柄を、さらに強く握りしめ振り上げた。
振り上げた小松菜の刃が赤く光り、ぼうっと火が灯る。
「おっしゃあああああッ!!」
勢いよく振り下ろした小松菜がドラゴンの鱗を砕き、肉を割いて骨を折る。ドラゴンは最後に大きく尻尾を振り高く吠えると、そのままぴたりと動かなくなった。
ドラゴンの身体に食い込んだ小松菜を茫然と見ながら、小さく息を吐く。
「勝った…?」
「…そのよう、ですね」
ドラゴンに触れながら答えるソルトさんの言葉に、私は身体の力を抜いてドラゴンの上からずり落ちた。気が付いたら、体中軽い火傷だらけだ。でも三人とも無事だ。いつものように朗らかに微笑むソルトさんと心配そうに駆け寄るツクダニを見て、小さく笑みを浮かべる。
「シオカラ、怪我は?」
「うん、火傷だらけだけど大丈夫」
ツクダニに手を引かれ立ち上がると、ツクダニは安心したように表情を緩めた。
しんと横たわるドラゴンを見て、改めてもっと強い人や頭の良い人なら簡単に倒せたんだろうなーと自分の弱さを実感した。
でもまあ、なんか破れかぶれだったけど、とりあえず勝ったから良しとしよう。
「って、ああ、そうだ。ツクダニの鉄枷探さなきゃ」
「…ああ、」
何か言いたげなツクダニを置いてそこら辺をうろうろ動いてみると、鉄枷は案外あっさり見つかった。
洞窟の端っこで粉々に砕けて欠片を何個か紛失した鉄枷。持ち帰っても元の形には戻らないだろうなというのが何となくわかった。
鉄枷をじっと見下ろしているツクダニの顔を覗き込む。
「ごめん、これじゃあ元には戻らないね」
「………いや、いい」
ツクダニの言葉に小さく首をかしげる私に、ツクダニは小さく笑みを零す。
「シオカラを助けて壊れた物だ、きっとこれで良かったんだ」
どこか、ずっと抱えていた重荷が無くなったようにツクダニは言った。